~~
岸田文雄首相とバイデン米大統領、尹錫悦韓国大統領が米ワシントン郊外の大統領山荘キャンプデービッドで会談した。
共同声明は「日米韓パートナーシップの新時代の幕を開く」ため首脳が集(つど)ったとし、3カ国の安全保障協力を「新たな高みへ引き上げる」と宣言した。
日米韓の安保協力強化は共同の抑止力を高め、地域の平和と安定の確保に資する。3カ国首脳の合意を評価したい。
「時代の要請」意識した
首脳や外務、防衛担当の閣僚らが年1回は会談することや、緊急事態になれば速やかに協議することを決めた。自衛隊と米韓両軍による陸海空など複数領域での共同演習の実施や、日韓による北朝鮮ミサイル発射情報の即時共有の早期開始を確認した。ウクライナ支援や拉致問題への協力で一致した。
岸田首相は共同会見で「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が危機に瀕(ひん)している」としてロシアのウクライナ侵略、(中国による)東・南シナ海での一方的な現状変更の試み、北朝鮮の核・ミサイルの脅威を挙げた。「日米韓3カ国の戦略的連携の潜在性を開花させることはわれわれにとっての必然であり、時代の要請だ」と語った。その危機感は妥当だ。
北朝鮮は、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や変則軌道の弾道ミサイル、戦術核兵器の戦力化を急いでいる。国連安全保障理事会決議違反の弾道ミサイル発射を繰り返している。日米韓が共同演習で抑止力を強め、情報共有で対処力を高めることは理にかなっている。
対中国で連携を打ち出した点も注目したい。共同声明は、中国の南シナ海での「危険かつ攻撃的な行動」を含め、インド太平洋地域の水域における一方的な現状変更の試みに「強く反対」した。さらに、「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素」として「台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認」した。
韓国は文在寅前政権当時も米国との間で「台湾海峡の平和と安定の重要性」で一致していたが、米韓間の安保上の信頼が揺らいでいたため大きな意味を持たなかった。中国との関係よりも日米を重視する尹政権が登場し、日米韓の首脳が直接会談で台湾問題を取り上げた。その意義は大きい。
日米韓の国内総生産(GDP)の合計は世界の約3分の1で、総人口は約5億人だ。日韓間に共同防衛の約束はないものの、日米韓で安保協力を強めれば、中朝露という専制国家に対する抑止効果や外交力の向上が期待できる。
万一、台湾有事になれば北朝鮮の挑発や暴発を防ぐため韓国の協力が欠かせない。一方、朝鮮半島有事では日本の協力が不可欠だ。尹大統領は15日の演説で、朝鮮国連軍の後方司令部と指定基地が日本にある点に触れ、「北の南侵の最大の抑止要因になっている」と説いた。その通りである。
レーダー照射解決せよ
キャンプデービッド合意に沿って日米韓は具体的な協力を進めていかなければならない。
ただし、懸念や残された課題もある。
韓国は反日感情を募らせやすく、政権交代で政策が大幅に変わってきた歴史がある。
リアルな安保認識を持つ尹政権に政治的勢いがある間は協力を進められるかもしれない。だが、左派野党への政権交代などがあれば、文前政権時のような「戦後最悪」の関係に戻り、「新たな高み」など吹っ飛びかねない。そのリスクを忘れずにいるべきだ。
2018年の韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射問題も解決していない。目標をミサイルなどで攻撃する準備で、危険な敵対的行為だった。韓国は今も事実を認めず、謝罪もしていない。自浄作用の働かない韓国の政府と軍は信頼しきれない。
キャンプデービッド合意に沿って韓国が動けば、朝鮮半島にとどまらずインド太平洋地域や世界でも存在感が高まろう。国際政治の主なアクターとして登場できるかもしれない。それには、レーダー照射などの反日政策の清算が求められる。
核兵器をめぐる分野は不十分だった。米国は共同声明で、日韓防衛に関し、核抑止力を含む米国の拡大抑止は強固だと強調した。それはよいとしても、核抑止自体の信頼性向上の取り組みへの言及がなかったのは残念である。
◇
2023年8月20日付産経新聞【主張】を転載しています